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精神科における診断書の「何故?」
会社と社員を助ける一歩進んだ「診断書」の理解と対応法

休職した社員から渡される医師診断書に「うつ病」あるいは「うつ状態」とだけ記載されており、病気の状況が何もつかめずに困ったことはありませんか?あるいは、病名がよくわからないので全て一様に「うつ」として対応してはいませんか。ここでは経営者や経営幹部が診断書を読み解き、一歩進んだ対策がとれるよう、病名の持つ意味について解説します。

そして、そもそもメンタル不調者を出さないための対策について大切な事項を3点に絞って説明します。

①なぜ精神科/心療内科の診断書は曖昧なのか

内科や外科などの身体疾患と比べ、精神科や心療内科など精神疾患における診断書は、意図がわからない、理解することが難しい、などといった悩みを聞くことが少なくありません。

精神科・心療内科の診断書に関して質問をうける事柄で最も多いものが「病名」についてです。大抵の場合、診断書の病名欄には、「うつ状態」「うつ病」「適応障害」「自律神経失調症」等と書かれています。そして休職が必要な旨や期間が記載されています。

どうしてこのように画一的な診断書となってしまうのでしょうか。精神疾患の種類はこれだけしかないのでしょうか。これらには何か違いがあるのでしょうか。これまでは特に深く考えずに対応してきた方がほとんどだと思います。診断書における病名に対する理解と対応を考える前に、まずはなぜ病名が曖昧なものになってしまうか理由を考えてみましょう。

 

精神科や心療内科の診断書にかかれる病名は、特殊な事情からこのような簡素なものとなっています。というのは、以下の3つの理由があるからです。

 

  1. 不利益とならないよう配慮した病名にすることがある
  2. 状態像として病名を記載することが一般的となっている
  3. 短期間では正確な病名として確定ができないことがある

 

まず1ですが、心の病気に対する社会の認識はだいぶ広がったとはいえ、いまだに根強い偏見があります。ですから患者さんのことを考えて、印象がやわらかい病名にすることはよくあります。精神疾患は、身体疾患と同じように誰でも罹患する可能性があります。正確な診断名を記載しても、偏見による不利益を被らないような社会であればよいのですが、現実的にはなかなかそこまで精神疾患への理解が浸透しているとはいえません。そこを主治医は考慮し、偏見から職場復帰やその後の社会生活が妨げられることのないよう配慮をし、病名をつける場合があります。

 

次に2ですが、診断書は公文書であるため、確定的な事しか書けないという事情があります。そのため診察日の時点で確実に把握できていることとして、状態像を病名として書くことが一般的です。一番多いのが「うつ状態」です。「気分の落ち込みが著しく社会生活に支障がある状態」という意味になりますが、このような記載の仕方をするには、「うつ病」と書くより印象をやわらかくするという目的の場合もありますが、それ以外にも、背景にある本質的な原因が多彩である、という理由があります

 

うつ状態に至った背景には、職場の環境以外にも、生来的な気質、生育歴や家庭環境、身体疾患によるものなどがあります。実際の診療場面では、このような事柄から多面的に把握し、診断に至ることが多く、相当な時間をかけて問診を行っていますが、この過程で得られた情報は、プライバシーに深くかかわるため、会社側に伝えることはできません。そのため、あくまで表面的な表現形としての状態像を記載するにとどめるのです。

 

また、別の理由として「うつ病」と診断するためには基準があり、確定するには一部が足りない場合に「うつ状態」が使われることもあります。現在の診断基準は、ICD-10ないしDSM-5という国際基準が用いられ、その基準を満たさない場合は診断に至らないこととなります。例えば、うつ病と診断するためには、うつ状態が2週間以上続いていることを確認することが前提となっています。初めて来られた患者さんの様子をみて、明らかに2週間以上続いていると判断される場合もありますが、実際に2週間以上経過観察をしているわけではないので正確性を優先して「うつ状態」とする場合があります。

 

さらに、背景にたとえば人格障害や統合失調症など別の精神疾患がある場合でも、抑うつ症状を呈するものが多いことから、表層的な部分を切り取り「うつ状態」とすることがあります。

 

3つ目の理由としては、精神科や心療内科の病名は、治療経過で変わる場合があり、長期間を通してしか診断確定には至らないことがあります。実際の診療場面においても長期間の治療経過の中で、少しずつ患者さんの本質が見えてきます。抑うつ症状で通院していた患者さんがときには10年以上かけて、逆に気分が異常に高揚する躁状態を呈し、診断が躁うつ病(現在では双極性障害と呼ぶのが一般的)へ変更されるようなこともあります。そのため、あくまで今の状態ということで、正確性を優先し状態像のみを記載することが多くなっています。

 

②診断書の各病名の示す意味

精神科・心療内科による医師診断書の病名をあまり深く考える必要はありませんが、実は病名により微妙なニュアンスの違いがあります。主治医の臨床感覚による差異はあるので、一概には言えませんが、知っておくと今後の見通しに役立つことが大いにあります。事業の現場においては精神疾患を専門家のように理解する必要はありませんが、病名に関して、以下のように解釈できることを少しでも知っておくと、一歩踏み込んだ対応ができる可能性があります。ここでは、診断書によくある病名トップ5について推測できることと、頻度は少ないものの重要な病気について、とるべき対応について、解説していきたいと思います。

 

<よくある病名トップ5>

①「うつ状態」:文字通り、落ちこみが深い状態ことしか読み取れません。背景にある問題や今後の展開が最も測りづらい、情報量の少ない診断名です。

 

【対策】うつ状態に至った原因によりとるべき対応が変わるため、まずは産業医に本人と面談させることや、主治医に別途意見書を求めるなどを行い、さらなる情報収集に努める必要があります。この際、本人に詰問してしまうとうつ状態がさらに悪化するため本人が自発的に話せることだけを聴くという姿勢が重要です。もし十分に話ができる状態になければ、まずは心身の回復のためしっかりと休養させましょう。

 

②「うつ病」:うつ状態と比べると診断が明確です。しっかりとした休養期間が必要であると予測することができます。

 

【対策】腰を据えて対応する必要があります。うつ病の診断に至った者の職場復帰への平均は約6か月であることも念頭に置き、本人にはしっかりと休養をとらせるとともに、職場としても復帰後の就業環境について調整を進めることが必要です。

 

③「心因反応」:何らかのストレス因に反応して、うつ状態に至っている場合に使われることが多い病名です。

 

【対策】ストレス因に晒される期間が長くなればなるほど、回復にかかる時間も長くなるため、まずは原因となっている事柄から遠ざけることが必要です。ストレス因がわからない場合は、休養させ冷静に話ができる程度に回復した時点で本人から話を聞きましょう。その際にも、受容的・共感的に傾聴し、決して本人を責めることがないよう配慮することが重要です。関係上、上司が直接聴取することが難しい場合は産業医面談を受けさせることも考慮して下さい。

 

④「適応障害」:人事異動などの職場環境の変化があった後、新しい環境に上手くなじめずうつ状態に至っている状態を示唆しています。復職のためには職場環境の調整が必要となる可能性が高くなります。

 

【対策】本人に任せすぎてサポートが不足していた場合や、人間関係の問題に適応できなかった場合が考えられるため、サポート体制を変更することや異動できる部署がないか等を検討する必要があります。本人の病状回復が済んでも職場側の環境調整が済まないと職場復帰は困難と判断されるため、早めに対応することが休職期間の長期化を防ぐこととなります。

 

⑤「自律神経失調症」:心身の疲労が過度に蓄積し、主に身体の不調として現れている状態です。症状は、各種痛みや動悸、めまい、吐き気など多岐にわたります。

 

【対策】この状態で就労を続けると、精神面の症状も悪化する可能性があります。そうなると、さらに長期間の休養が必要な状態に至ってしまうので、早い時点でまずは身体的な症状が消失するまで療養させることが必要です。本人は身体面が回復すると自己判断で早期から「もう大丈夫」と言うこともありますが、実際は精神面にも疲労がたまっていることが多く、再発させないためには復帰について産業医と相談しながら慎重に検討しましょう。

 

<診断書での頻度は少ないが重要なもの>

 

①「統合失調症」:幻覚妄想がみられるなど、脳の病気です。「幻覚妄想状態」という病名をつけられることもあります。

 

【対策】治療が必要な状態です。入院が必要か否か、必要な場合期間はどれくらいかなど、本人の同意を取った上で治療の見通しを主治医に確認すると対応の助けとなります。

 

②「双極性障害」:うつ症状と躁症状を繰り返す脳の病気です。

 

【対策】現在はこの病名は比較的幅広く使われる傾向にあります。症状を反復しているため、いま現在がどのような状態なのか、その都度確認していく必要があります。こまめに本人とコミュニケーションをとる事が必要になるでしょう。

 

③「不安障害」:不安が強い傾向が見られストレス等により悪化し、社会生活が困難なほどに至っている状態です。細分類として多彩な病気が含まれています。

 

【対策】程度や事情により働ける場合もあれば、就労を中止することが望ましい場合もあります。ここにはパニック障害など、早期に対応しなければならない重大な病気も含まれていますので必ず専門の産業医に相談することが望まれます。

 

④「発達障害」:社会生活が困難なほどのコミュニケーションの障害や、注意力・集中力の欠如・偏在があると判断されています。ある特定の分野に秀でているなどのポジティブな面がある可能性も示唆されます。

 

【対策】苦手分野が際立って目立ちますが、適性配置をすることにより、輝かしい働きをすることもあります。本人の長所に合わせた配置転換を検討しましょう。

 

⑤「睡眠障害」:眠れないものだけでなく、睡眠時無呼吸症候群や過眠症なども含まれます。

 

【対策】睡眠障害も、その原因には多くの疾患があります。ストレスで眠れていないのだと決めつけずに、睡眠専門クリニックなどで正確な診断を受けるように勧めてみましょう。

 

※ここで述べていることはあくまで、参考程度としてください。

 

診断名をどのようにつけるかは、各医師の経験や臨床感覚が強く影響することも事実です。

独自で判断するのは極力避け、産業医に相談したり主治医に連絡を取るようにしてください。

 

③メンタル不調者を出さないために今すぐできること

最後に、そもそもこれらの診断書を持ってくるような社員が出ないようにする方法について大切な事とは何なのか、お伝えしたいと思います。

 

1.自分のストレス感度を高めよう:本質的なストレスチェック(セルフケア)

ストレスチェック制度が始まり、受検をされた方も多いと思います。まずはこの時期に自分自身のストレス状況と向き合うようにしてください。この雑誌の読者の多くのような経営幹部は、就労意識が高いだけにストレスを無視してしまい不調に気が付きにくいといった特徴があります。高ストレス者と判断された場合には、短期間でもよいので休暇をとるか、産業医に健康相談やメンタル相談をしてみることも大切です。経営幹部の場合は、答えは自分の中に持っていることが多いのですが、とはいえ第三者に話し思考の整理をする時間は必要です。社員だけではなく経営者や経営幹部もぜひ産業医を活用してください。

 

2.「うつ発見器」を持ち歩こう:上司によるケア(ラインケア)で最も大切なこと

「うつ」を見逃さないために最も大切なことは何でしょうか。それは「うつ」かもしれないという視点を常に持っておくことです。敢えてひとつのメッセージに絞ればこれに尽きるといっても過言ではありません。管理職のメンタルヘルスに対する意識を高めましょう。そして少しでも異変を感じたら声をかけるように管理職全員が努めましょう。普段は気にかけていても、気を緩めているときに問題は起こります。多忙な時期や、あるいは逆に順調な時、さらにセンサーの感度を高めるようにしてください。

 

3.メンタルヘルスは敢えて話題にしよう:職場の雰囲気によるケア

メタボ健診は、「おれ引っかかっちゃったよ」などと話題にすることがちらほら聞かれます。ストレスチェックも、それくらいオープンに話せる雰囲気があれば、お互いにケアし面談をすすめるなどの対策が早く取れることになります。これは非常に効果的ですが、プライバシーの問題などもあり最も難しいかもしれません。ただ組織の風土を変えることができるのは、経営者や経営幹部しかいません。トップダウンで風土づくりを行いましょう。特別なことは必要ありません。とにかく、先陣を切ってたくさん話題にしてみるだけです。そこから職場環境改善への道が拡がります。具体的なできることとしては、最も手が付けやすいことではないでしょうか。これこそコストゼロですぐに実行でき、効果が絶大な対策といえます。

 

以上、会社と社員のための「うつ」対策は一筋縄ではいきませんが、簡単に行えて効果的なこともあります。まずはそこからはじめてください。本稿がその一助となれば幸いです。

2017年11月号

 

※この原稿は雑誌『近代中小企業』に掲載されました。

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